こんにちは。れこぽんです🍋
Netflixではまだ珍しい中国作品。
先週配信された『静寂の轟き』が気になったので、
さっそく観てみました。
作品概要|『静寂の轟き』はどんな映画?
原題:震耳欲聾(英語:Sound of Silence)は
2025年10月4日より中国で公開されました。
弁護士の実体験を基にした犯罪サスペンス映画で、
ドキュメンタリー要素を含む社会派作品となっています。
こうした切り口は、中国では比較的珍しいそうです。
主人公・李奇は、貧しい生い立ちから、地位と名声を追いかける弁護士。
自身は健常者ですが、ろうあ者の両親で育ったので手話が出来ます。
ある日、聴覚障害を持つ少女・張小瑞から助けを求められますが、
最初は距離を置こうとします。
しかし彼女が巻き込まれている事件が、
想定以上に大規模な詐欺事件であることを知り、
李奇は弁護士としての欲望と正義の間で葛藤しながら、
次第に事件へと向き合っていくことになります。
CODAとは?|作品理解に欠かせないキーワード
作中に出てきた言葉、CODAとは一体何か。
CODA(Children of Deaf Adults)とは、
ろう者の親をもつ聞こえる子供の事を言います。
幼少期から親の通訳をすることで、
親と社会との「橋渡し」の役目を担う人が少なくありません。
そのため、年齢に見合わない責任を背負い、
精神的な負担が大きくなりやすいとされています。
また、一般的な親子関係とは異なり、
親に対して複雑な感情を抱きやすいとされています。
静寂の轟きの主人公・李奇もCODAとして育ち、
自身の存在や立場について長く苦悩してきた人物として描かれています。
さらに、作中で悪役として登場する実業家・詐欺師の金松鋒も、
同じくCODAであることが明かされます。
まだ世の中ではあまり知られていない、CODAというアイデンティティ。
本作では、この背景を理解することで、
登場人物たちの生き方や葛藤がより立体的に見えてくるはずです。
良かったところ①|手話で伝わる感情の音
本作で一番印象的だったのは、やはり手話の表現です。
まず、李奇と馬さんが詐欺の被害後に手話で会話するシーン。
ここはほぼ無音になるのですが、
だからこそ「老後の為に金を稼ぎたかった」と話す馬さんの
寂しさと虚しさを強調しました。
また、裁判を勝ち取ったあとの李奇と張小瑞たちのシーンでは
先輩弁護士の前で労われている李奇に対し
堂々と「涙の芝居まで付き合うよ」と手話で合図する張小瑞。
李奇が「お願いだから黙って」と
気まずそうに返すやり取りは、思わずクスッとなります。
そして、クライマックスの裁判。
李奇は弁護士として詐欺師の金松鋒に脅されたことを主張するのですが、
ここだけカメラに向かって手話をします。
それは、被害に遭ったろう者たちを奮い立たせるための訴えでした。
言葉を補足したり、
口に出した内容とは異なる感情を重ねて表現できる点に、
手話ならではの強さと豊かさを感じました。
良かったところ②|正義と欲望で揺れる主人公ーースラム街と32階
『静寂の轟き』は、
李奇という一人の弁護士が抱える「葛藤の物語」でもあります。
その揺れ動く心情は、彼が身を置く二つの場所から読み取ることができます。
ひとつは、スラム街にあるボロボロの法律事務所。
ここは公平や正義の象徴として描かれています。
場所は決して綺麗ではありませんが、信頼できる従業員が一人おり、
弁護士としての原点が残っている場所です。
一方で、ろう者である父のためにお金が必要で、
貧しさから抜け出したいという切実な思いも抱えています。
もうひとつは、高層ビル32階にある豪華なオフィス。
こちらは地位や名声の象徴です。
優秀な弁護士たちとのつながりを得られる一方で、
内情は汚職にまみれ、弁護士としての大義は次第に失われていきます。
若者から羨望の眼差しを向けられる場面で見せる李奇の表情には、
どこかやるせなさが漂っていました。
李奇は、どちらの場所にいても満足していません。
正義を貫こうとすれば貧しさがつきまとい、
上昇志向を選べば、弁護士としての信念が削られていく。
そのどちらの葛藤も、決して特別なものではなく、
現実を生きる私たちにも重なる部分があるように感じました。
良かったところ③|あまり知られていない聴覚障害者たちの現実
『静寂の轟き』を観て強く感じたのは、
聴覚障害者たちが置かれている現実を知ることができた、という点でした。
中でも衝撃的だったのが、
事件に巻き込まれた際に、通報すること自体が非常に困難であるという現実です。
作中では、張小瑞の兄が、
自宅に取り立てに来た詐欺師を刺してしまい、逮捕される場面が描かれます。
妹が先に暴力を受けていたこと、
それをかばうために咄嗟に刃物を使ってしまったこと、
さらに、その後すぐに手話で必死に通報し助けを求めていたにもかかわらず、
その声が誰にも届かなかったことが、裁判の中で明らかになります。
また、別の被害者であるろう者の母親は、
取り立てで暴力を受けた息子を助けるため、警察へ向かいます。
しかし、文字の読み書きができないために、
被害状況をうまく伝えることができませんでした。
社会側の理解や支援が不足していることで、
本来なら助けられたはずの声が、取りこぼされてしまっている。
この映画を観て感じたのは、
聴覚障害者たちが決して「勇気がない」のではない、ということです。
むしろ、必死に声を上げているのに、
私たちがそれを受け取れていないだけなのではないか。
その現実こそが、ろう者たちに行動のハードルを課しているのだと、
考えさせられました。
演技が光った主要キャスト
檀健次(タン・ジェンツー)/ 李奇役
ボーイズグループ「MIC男団」のメンバーとしても活動する俳優で、現在35歳。
日本に住んでいた時期があり、名前の由来が『北斗の拳』だという噂もあるそうです。
端正な顔立ちをしていながら、
主人公・李奇の粗暴さやハングリー精神をしっかり表現しており、
言われなければアイドル出身だとは気づかないほどでした。
特に印象的だったのは手話での芝居。
力強さが前面に出る一方で、
李奇の心情の揺れ動きにはきちんと繊細さが込められており、
この役に説得力を与えていたと思います。
兰西雅(ラン・シーヤ)/ 張小瑞役
現在27歳。少数民族トゥチャ族の出身で、
世界的に話題のNetflixシリーズ『三体』にも出演しています。
第一印象は、とにかく涙の演技がうまいということ。
作中では「同情を誘って」と手話で指示され、
その通りに涙を見せる場面がありますが、
わざとらしさがなく、とても自然でした。
兄の裁判を見守るシーンでは、
涙をいっぱいに溜める表情がリアルで、
中国でも演技派女優として評価されている理由がよく分かります。
他の出演作も観てみたくなる、
独特の存在感と高い演技力を持った俳優だと感じました。
気になったところ|ややドラマチックすぎる展開
個人的に気になったところは、
実話に基づいた映画にしては、誇張した展開と演出が多いことです。
李奇が一つの裁判後を勝ち取っただけで、出世スピードが早すぎる。
それまでの雰囲気がシリアスなだけに
勝訴後の李奇が成り上がっていくモーションが、コメディドラマみたいにポップで
違和感を感じた。
そして最後の裁判の訴えるシーンでは
ドラマチックな音楽のかけ方が少しわざとらしくて冷めてしまった。
冒頭のシーンから、ドキュメンタリー映画にしてはコメディも入るエンタメ要素の強い作品であることが示唆されてはいたが、もう少しその要素を抑えてもよかったのではないかと思った。
『静寂の轟き』で、個人的に気になったのは、
実話に基づいた作品にしては、やや誇張された展開や演出が多い点です。
特に、李奇がひとつの裁判に勝っただけで、
その後の出世スピードがかなり早く感じられました。
それまでの空気がシリアスだっただけに、
勝訴後に成り上がっていく流れが、
コメディドラマのようにポップで
少し違和感を覚えました。
また、クライマックスの裁判で訴えかける場面では、
ドラマチックな音楽の使い方がやや強く、
演出の意図は分かるものの、個人的には少し冷めてしまった部分もあります。
冒頭の時点で、ドキュメンタリー的でありながら
エンタメ要素の強い作品であることは示唆されています。
ただ、テーマが重い分、もう少し演出を抑えた方が、
より現実味が増したのではないかと感じました。
まとめ|”静寂の音”を伝える映画
今作を通して感じたのは、
「静寂」は決して無音ではない、ということ。
英題の Sound of Silence が示すように、
この作品で描かれる静けさには、“音”があります。
それは、言葉にされない感情であり、
届かない声であり、それでも必死に伝えようとする意思の強さです。
声を出せないからこそ、
より強く、より切実に響いてくるものがある。
本作は、その「静寂の中にある音」を、
観る側にまっすぐ投げかけてくる映画でした。


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